高齢者の介護は、身体的にも精神的にも負担が大きいものです。特に、家族が在宅で介護を行う場合、日常の介護作業が長時間にわたり、介護する側の負担が蓄積してしまうこともあります。そこで、介護の負担を軽減するために福祉用具の活用が非常に有効です。福祉用具は、介護される側だけでなく、介護を行う側の負担も軽減してくれる優れたサポートツールです。このブログでは、福祉用具の種類とその使い方について、わかりやすく説明します。
福祉用具とは?
福祉用具とは、介護を行う際に使用する道具や機器のことを指します。これには、移動をサポートするための歩行器や車いす、入浴や排泄を助けるための特殊な椅子、さらにはベッドやマットレスなども含まれます。これらの道具をうまく使うことで、介護される方が安全に生活できるだけでなく、介護する側の体力的な負担を軽減することができます。
福祉用具の種類と使い方
1. 移動をサポートする用具
高齢者の方が安全に移動できるようにするための用具です。転倒のリスクを減らし、歩行や移動のサポートをしてくれます。
① 歩行器
歩行が不安定な方にとって、歩行器は非常に有効です。歩行器には、固定式のものと、車輪が付いていて押して進むタイプがあります。特に、車輪付きのものは自力で歩くことが難しい方でも、体重をかけながら移動できるため、スムーズに移動することが可能です。
- 使い方: 使用者は歩行器を両手でしっかり握り、体重をかけながら少しずつ歩きます。足を前に出す前に、歩行器を自分の進行方向に少し押し出し、その後足を動かすことで安定した歩行が可能です。
② 車いす
歩行が困難な場合、車いすが大きな助けとなります。自分で操作できる手動式の車いすもあれば、介助者が押すことで移動する介助用の車いすもあります。
- 使い方: 車いすに乗る際は、まずブレーキをしっかりとかけて、車いすが動かないようにします。車いすへの乗り降りは転倒の危険が伴うため、介助者がサポートすることが重要です。また、段差がある場所では、車いすの後ろを少し持ち上げて移動させることで、スムーズに進むことができます。
2. 入浴をサポートする用具
高齢者の方にとって、入浴はリラックスできる時間ですが、同時に滑って転んでしまうリスクもあります。そのため、入浴用の福祉用具は安全にお風呂を楽しむために非常に役立ちます。
① 入浴用の椅子
お風呂に入る際に、安定して座れるようにするための椅子です。これに座ることで、立ったままでの入浴よりも体力を使わず、転倒のリスクを大幅に減らすことができます。
- 使い方: 入浴用の椅子は、浴槽の横に設置し、入浴する方がしっかりと座れるようにします。座った状態で身体を洗ったり、浴槽に入る前に一度座ることで、体調を整えることができます。
② バスボード
バスボードは、浴槽の縁に設置して座ることができる板状の用具です。これを使用することで、浴槽に入る際の足上げ動作が楽になり、滑るリスクも軽減されます。
- 使い方: バスボードは、浴槽の縁にしっかりと固定します。高齢者はバスボードに腰をかけ、そこから浴槽に足を入れて座ります。浴槽の中で立ったりしゃがんだりすることなく、安定した姿勢でお湯に浸かることができます。
3. 排泄をサポートする用具
排泄は、介護の中でも特に大きな負担がかかる作業の一つです。適切な福祉用具を使うことで、介護される方が自尊心を保ちながら安心して排泄を行うことができます。
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① ポータブルトイレ
ポータブルトイレは、トイレまでの移動が難しい方や、夜間に頻繁にトイレに行く必要がある方に非常に便利です。寝室など、普段いる場所の近くに設置できるため、移動の負担が減ります。
- 使い方: ポータブルトイレは、使用者の体格や介助のしやすさに合わせて高さや位置を調整します。座る際は、介助者が側にいて支えたり、手すりを使って安全に座ることが大切です。また、使用後は衛生的に清掃し、清潔に保つことが必要です。
② 尿器
尿器は、ベッドから起き上がることが難しい方のために使用される器具です。特に男性用と女性用のものがあり、体にフィットする形状になっています。
- 使い方: 尿器は、使用者の体に合わせて優しく当て、排尿が終わったらすぐに取り外します。その際、こぼれないように注意し、使用後はすぐに清掃します。
4. ベッド関連の福祉用具
介護が必要な方の寝起きや体位変換をサポートするためのベッド関連の福祉用具も重要です。適切なベッドやマットレスを使用することで、介護される方の快適さだけでなく、介護する側の負担も大幅に軽減できます。
① 介護ベッド
介護ベッドは、電動で高さや角度を調整できるため、寝起きや体位変換がスムーズに行えます。背もたれ部分をリクライニングさせたり、ベッド全体を上下させることで、立ち上がりやすくしたり、介護者が無理なく介助できる姿勢を取ることができます。
- 使い方: 介護ベッドは、使用者の体調や必要に応じて高さや角度を調整します。例えば、寝ている状態から起き上がる際には、背もたれを徐々に起こし、足元を少し上げてバランスを保ちながら起き上がることができます。ベッドの高さも、介護者が腰を痛めないように適切な高さに調整することが大切です。
② サイドレール(ベッドの柵)
ベッドからの転落を防ぐために、介護ベッドにはサイドレール(柵)を付けることができます。特に、夜間の寝返りや不意の動作でベッドから落ちてしまうリスクがある方にとっては、非常に有効です。
- 使い方: サイドレールは、介護される方がベッドで安全に過ごせるよう、必要なタイミングで上げ下げします。通常、夜間や介護者が目を離す際にはサイドレールを上げ、日中の介助が必要な際には下げると良いでしょう。
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③ 床ずれ防止マットレス
長時間同じ姿勢で寝ていると、皮膚が圧迫されて「床ずれ」を起こしてしまうことがあります。床ずれ防止マットレスは、体圧を分散し、長時間の寝たきり状態でも皮膚への負担を軽減します。
- 使い方: 床ずれ防止マットレスは、通常のベッドの上に設置して使用します。マットレス自体が柔らかく、体の重さを均等に分散させる仕組みになっているため、使用者は自然な寝心地で過ごすことができます。定期的に体位を変えることで、さらに床ずれのリスクを減らすことができます。
5. 食事をサポートする用具
高齢者の中には、自力で食事をすることが難しい方もいます。そのような場合、適切な福祉用具を使うことで、食事をより快適に楽しむことができるようになります。
① 自助具(食事用の補助具)
食事用の自助具には、握力が弱い方でも使いやすいフォークやスプーン、手が震えてもこぼれにくいカップなどがあります。これらの道具は、介護される方が自分の力で食事をする自立をサポートします。
- 使い方: 食事用の自助具は、使用者の手の大きさや握力に合わせて選びます。例えば、太めの柄を持つスプーンやフォークは、握力が弱い方でもしっかりと持てるため、食べ物を口まで運びやすくなります。また、持ち手が曲がっているものは、手首を無理に動かさずに食事ができるよう工夫されています。
② スライディングテーブル
ベッドや車いすで過ごす時間が長い方にとって、食事や作業がしやすくなるテーブルも重要です。スライディングテーブルは、ベッドや車いすに直接取り付けることができ、使う人の体に合わせて簡単に移動できるため、食事や趣味の時間を快適に過ごすことができます。
- 使い方: スライディングテーブルは、ベッドや車いすのサイドに固定し、使用者が食事をするときや物を書くときに体に近づけることができます。食事の際は、テーブルを使用者の体に合わせて適切な高さや位置に調整し、手が無理なく届くようにします。テーブルの高さや角度を微調整できるものが多く、簡単に扱える点が便利です。
6. リハビリをサポートする用具
自宅でリハビリを行うための福祉用具も数多くあります。これらの用具を活用することで、筋力の維持や身体機能の回復をサポートし、介護を受ける方のQOL(生活の質)を向上させることができます。
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① ハンドグリップ(握力トレーナー)
握力が低下している方や、手先の筋力を維持したい方に適したリハビリ用具です。ハンドグリップは、手の筋力を鍛えることで日常生活の動作がスムーズにできるようになります。
- 使い方: ハンドグリップは片手で握って力を入れ、ゆっくりと開閉する動作を繰り返します。少しずつ握力を強化することで、食事や物を持ち上げる動作が楽になることが期待されます。無理なく、毎日少しずつ継続して行うことがポイントです。
② バランスボール
バランスボールは、体幹や下半身の筋力を強化するために使われるリハビリ用具です。バランスを取りながら座ることで、自然に姿勢が良くなり、筋力が鍛えられます。
- 使い方: バランスボールに座る際は、安定した場所に設置し、体を前後左右に少しずつ動かしながらバランスを取ります。座っているだけでも体幹を鍛えることができますが、慣れてきたら手足を軽く動かすエクササイズも加えることで、全身の筋力強化が期待できます。無理なく続けることが大切です。
③ ペダル式エクササイズマシン
ペダル式の小型エクササイズマシンは、座ったままで足や腕の筋力を鍛えることができるリハビリ用具です。軽い運動で筋力を維持したり、血行を促進する効果があります。
- 使い方: ペダル式エクササイズマシンは、椅子や車いすに座った状態で、足をペダルに乗せてゆっくりと漕ぎます。腕用に使う場合は、テーブルの上に置いて手でペダルを回します。ペダルの負荷を調整できるタイプもあり、個々の体力に合わせて無理なく運動を続けることができます。
7. コミュニケーションをサポートする用具
高齢者の中には、聴覚や視覚が低下している方もおり、コミュニケーションが困難になることがあります。そこで、コミュニケーションをサポートするための福祉用具が役立ちます。
① 音声拡張機器
聴覚が低下している方にとって、音声を明瞭にする補聴器や、テレビや電話の音量を拡大する装置が役立ちます。これらの機器は、日常生活でのコミュニケーションを円滑にし、会話や情報の理解を助けます。
- 使い方: 補聴器は、耳にフィットさせ、個々の聴力に合わせて音量を調整します。テレビや電話の音声を拡張する機器は、使用者が無理なく聞き取れるように音量を設定し、周囲の雑音が少ない環境で使用することが推奨されます。
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② 拡大鏡やルーペ
視力が低下している方には、文字を大きく見えるようにする拡大鏡やルーペが便利です。これらを使用することで、新聞や本の文字を読む際の負担が軽減されます。
- 使い方: 拡大鏡やルーペは、読みたい部分に適切な距離で当てて使います。手元の作業に合わせた大きさや倍率のものを選び、手軽に使用できるよう工夫します。ライト付きの拡大鏡もあり、視界をさらにクリアに保つことが可能です。
8. 介護者の負担軽減に役立つ用具
介護は身体的にも精神的にも負担が大きいため、介護者自身の健康管理も重要です。介護者の負担を軽減するための福祉用具を活用することで、より快適に介護を続けることができます。
① リフト(移乗用具)
リフトは、介護される方をベッドから車いす、またはトイレなどに移動させる際に使用する用具です。これにより、介護者が無理な体勢で持ち上げたり移動させる必要がなくなり、腰痛や疲労を防ぐことができます。
- 使い方: リフトは、使用者の体に安全に装着される専用のハーネスを取り付け、機械で持ち上げて移動させます。操作は簡単で、安全に移乗を行うことができますが、最初に正しい使い方を学ぶために専門家の指導を受けると安心です。
② 滑り止めシートや移動補助シート
滑り止めシートや移動補助シートは、介護される方をベッドの上で動かしたり、体位を変えたりする際に便利です。シートを敷くことで、滑りやすくなり、少ない力で移動が可能になります。
- 使い方: 移動補助シートは、ベッドに横たわっている方の背中や腰の下に敷いて使います。介助者がシートの端を持ち、体をゆっくりとスライドさせることで、体位を簡単に変えることができます。介護者の負担を大幅に減らし、介護される方にも負担がかかりにくい方法です。
9. その他の便利な福祉用具
これまで紹介した福祉用具以外にも、介護の場で役立つ様々な道具があります。例えば、手元を明るく照らすスタンドライトや、飲み物をこぼさずに飲める特殊なカップなど、小さな工夫で介護の質が向上します。
① スタンドライト
高齢者の中には、視力が低下しているため、手元や足元が見えにくい方もいます。スタンドライトを適切な場所に設置することで、暗い場所でも安心して行動できるようになります。
- 使い方: スタンドライトは、作業をする場所や手元を照らしたい場所に合わせて設置します。調整可能なアーム付きのものを選ぶと、状況に応じて角度を変えることができ、非常に便利です。特に、夜間にベッドの横に設置することで、トイレに行く際の転倒防止にもなります。
② すべり止め付きマット
高齢者の方が床で滑って転倒するのを防ぐために、すべり止め付きのマットを使用することが有効です。特に、洗面所や玄関など、床が濡れやすい場所では滑りやすくなるため、適切な場所に敷くことで転倒のリスクを大幅に減らすことができます。
- 使い方: すべり止め付きマットは、床にしっかりと固定できるよう裏面に特殊な加工が施されています。使用する場所にマットを敷くだけで、足元が安定し、特にお風呂場やキッチンなどでは転倒防止に役立ちます。洗濯が可能なものも多く、清潔を保ちながら使い続けることができます。
③ 補助ハンドル(手すり)
高齢者が立ち上がったり、移動したりする際には、壁や家具に取り付けられた手すりや補助ハンドルが大きな助けになります。これにより、手を使って身体を支えながら安全に移動できるようになります。
- 使い方: 補助ハンドルは、設置する場所の高さや使用者の体格に合わせて選び、しっかりと固定します。特に、トイレや玄関のように立ち上がったり座ったりする動作が頻繁に行われる場所に設置すると便利です。ハンドルを握りやすいよう、滑りにくい素材が使われているものを選ぶことが大切です。
10. 介護保険を活用した福祉用具のレンタル・購入
福祉用具の多くは高額なものが多いため、経済的な負担が心配になることもあるかもしれません。しかし、日本では介護保険を活用して福祉用具をレンタルしたり、購入することが可能です。この制度をうまく利用することで、負担を減らしながら必要な福祉用具を揃えることができます。
① 福祉用具のレンタル制度
介護保険を利用することで、介護ベッドや車いす、歩行器などの大きな福祉用具をレンタルすることができます。これにより、必要な期間だけ用具を使用し、不要になった場合には返却することで経済的負担を抑えられます。
- 使い方: 福祉用具をレンタルする場合、まず介護認定を受ける必要があります。その後、ケアマネージャーと相談しながら、必要な用具を選びます。レンタルした用具は定期的にメンテナンスが行われるため、清潔で安全に使用することができます。
[親・身内が亡くなった後の届出・手続きのすべて-加納-敏彦]
② 福祉用具購入の補助制度
歩行補助杖やポータブルトイレなど、一部の福祉用具は購入することも可能で、介護保険を利用してその費用の一部が補助されます。これにより、長期間使用する用具については、経済的な負担を軽減して購入することができます。
- 使い方: 購入を希望する場合は、まずケアマネージャーに相談し、必要な申請手続きを行います。補助を受けるためには、指定された事業者から購入することが条件となりますので、事前に確認することが重要です。購入後も、使い方についてしっかりと説明を受け、長く安心して使えるようにしましょう。
福祉用具をうまく活用して快適な介護生活を
ここまで紹介したように、福祉用具は高齢者の生活をより安全で快適にするだけでなく、介護者の負担を軽減するためにも非常に役立つものです。適切な用具を選び、正しい使い方を知ることで、介護の質を向上させることができます。
福祉用具を選ぶ際には、使用する方の身体状況や生活環境に合わせて慎重に選びましょう。また、必要に応じて専門家のアドバイスを受けながら、介護をされる方も、介護をする方も共に快適に過ごせる環境を整えることが大切です。
介護をする上での疲労やストレスを軽減するためにも、無理をせず、福祉用具や公的なサービスを積極的に活用しましょう。介護は一人で抱え込むものではありません。必要なサポートを得ながら、長く続けていけるように工夫をしていきましょう。
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