高齢化社会が進む中で、自宅をバリアフリーに改修することは大変重要なテーマです。年を重ねるごとに身体機能が少しずつ衰えるため、日常生活を安全で快適に過ごすためには、住まいの環境を見直す必要があります。バリアフリー住宅は介護が必要な方だけでなく、まだ自立した生活を送っている高齢者にとっても事故やケガのリスクを軽減し、安心して暮らすための大きな助けとなります。
この記事では、専門的な知識がない方でもできるDIYでのバリアフリー改修方法を、丁寧に解説していきます。高齢者が生活する上で特に重要な部分である、玄関、廊下、階段、浴室、トイレなどを中心に、簡単に取り組める工夫や改修のポイントをご紹介します。また、改修にあたっての安全面や、使用する道具・材料についても触れていきますので、ぜひ参考にしてみてください。
バリアフリー改修の基本的な考え方
バリアフリー改修の基本は「段差をなくす」「滑りにくくする」「つかまる場所を増やす」という3つのポイントです。年齢を重ねると足腰が弱くなり、少しの段差でもつまずいたり、滑りやすい床で転倒するリスクが高まります。また、立ち上がる際に体を支えるための手すりや壁があると、バランスを崩さずに安心して移動できます。
次に具体的な改修方法を見ていきましょう。
玄関のバリアフリー改修
1. 段差解消
玄関は屋外から屋内に入る際に必ず通る場所で、段差があることが一般的です。段差はつまずきやすく、特に外出時や帰宅時にバランスを崩す原因になりやすいため、できるだけ段差を解消することが重要です。
最も手軽な方法は、玄関のステップに「スロープ」を設置することです。市販のスロープはさまざまなサイズや材質のものがあり、玄関の高さに合わせて選ぶことができます。軽量で持ち運びがしやすいものや、滑り止めがついたものもあるので、使う方の体力や状況に合わせて選びましょう。
DIYポイント
スロープは自分で設置することが可能ですが、傾斜が急すぎると逆に危険です。安全に利用できる角度は1:12程度(高さ1cmに対して長さ12cm)を目安にしてください。また、スロープの幅も十分に広く、車椅子や歩行器を使う方でも安全に通れる幅(75cm以上)を確保することが理想です。
2. 玄関マットの選び方
玄関マットも滑りやすさを軽減する重要なアイテムです。特に雨の日や雪の日など、靴が濡れていると滑りやすくなります。滑り止めがついたゴム製や、吸水性の高い素材のマットを選び、玄関の床が濡れても安全に歩けるようにしておきましょう。マットがずれないように、床に固定するタイプのものを使うとより安心です。
廊下のバリアフリー改修
1. 手すりの設置
廊下は家の中を移動する際に必ず通る場所であり、ここに手すりを設置することは非常に効果的です。特に長い廊下や、曲がり角がある場所では、歩行中にバランスを崩すことがあるため、つかまる場所があると安全です。
DIYポイント
手すりは市販の取り付けキットを使って簡単に設置できます。取り付ける際には、壁の中の柱をしっかりと確認し、その柱に手すりを固定することが大切です。手すりが緩んでしまうと、逆に事故の原因になるため、確実に固定されていることを確認してください。また、手すりの高さは80~90cm程度が一般的ですが、使う方の身長や手の位置に合わせて調整しましょう。
階段のバリアフリー改修
1. 手すりの二重設置
階段は家の中でも特に転倒のリスクが高い場所です。階段には左右両側に手すりを設置することで、安全性が格段に向上します。特に体のバランスを崩した時に両手でつかまることができるため、転倒を未然に防ぐことができます。
DIYポイント
階段に手すりを設置する際には、しっかりとした強度を保つために、壁の構造や材質に注意する必要があります。特に、階段を使う際に身体を預けることも多いため、十分な強度で固定されているか確認してください。市販の手すりキットを使用する場合は、取り付け方法や推奨されるネジの種類・サイズを確認し、安全に設置しましょう。また、手すりの高さは階段の勾配に合わせて調整しますが、一般的には握りやすい高さとして75~85cmが目安です。
2. 滑り止めの設置
階段の踏み面(足を置く部分)が滑りやすい素材であると、転倒のリスクが高まります。木材やタイルなど、滑りやすい素材の階段には、滑り止めテープやマットを取り付けることをおすすめします。これにより、足元が安定し、安全に上り下りできるようになります。
DIYポイント
滑り止めテープは、踏み面の端から数センチ内側に貼ると効果的です。テープの色も階段の素材とはっきりとコントラストが出るものを選ぶことで、視覚的に段差がはっきり認識でき、より安全です。また、定期的にテープの剥がれや劣化をチェックし、必要に応じて交換することが重要です。
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浴室のバリアフリー改修
浴室は水回りであり、滑りやすい環境のため、高齢者にとっては最も事故が起きやすい場所のひとつです。転倒防止のために、いくつかのDIY改修が効果的です。
1. 手すりの設置
浴室には、浴槽の出入りやシャワーを使う際に、手すりを設置することが重要です。特に浴槽から立ち上がる際には、安定して身体を支える手すりがあると、転倒リスクを大幅に減らすことができます。
DIYポイント
浴室に設置する手すりは、防錆加工が施されたものや、防水性の高い素材を選ぶことが大切です。また、手すりの位置は、浴槽に入る際の動作や、シャワーを使う位置を考慮して、身体が自然に届く範囲に設置します。吸盤で取り付けるタイプの手すりもありますが、強度が不安定な場合があるため、しっかりと壁に固定するタイプのものが安全です。
2. 滑りにくい床材の導入
浴室の床が滑りやすいタイルやプラスチック製の場合、滑り止めマットや防滑シートを導入することで安全性が向上します。これらは取り外しや掃除がしやすいものを選ぶと、清潔さを保ちながら安全を確保できます。
DIYポイント
滑り止めマットは浴室の床全体を覆う大きめのサイズを選ぶと、浴槽の出入りだけでなく、シャワーを使う際も安全です。また、防滑シートを貼る場合は、浴室の床の水分をしっかり拭き取り、シートがしっかりと密着するように貼ることが重要です。定期的にシートの劣化を確認し、必要に応じて交換しましょう。
トイレのバリアフリー改修
1. 手すりの設置
トイレの使用時、立ち上がったり座ったりする動作は、足腰に負担がかかります。手すりを設置することで、体を支えながら安全に動作を行うことができ、転倒のリスクが軽減されます。
DIYポイント
トイレに設置する手すりは、座った状態から立ち上がる際に握りやすい高さ(60~70cm程度)が理想です。また、左右どちらからでも手をつけるように、両側に設置するとより安全です。最近では、折りたたみ式の手すりもあり、必要な時だけ使うことができるため、スペースが限られたトイレにも適しています。
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2. 便座の高さ調整
高齢者にとって、低い位置の便座から立ち上がるのは非常に困難です。そのため、便座の高さを少し高くすることで、立ち上がりやすくなります。最近では、便座を数センチ高くできる「便座上げタイプ」の製品が市販されています。また、特殊な工具を必要とせず簡単に取り付けができるため、DIY初心者にもおすすめです。
DIYポイント
便座の高さを調整する際には、座った状態で足が地面にしっかりとつく高さを保つことが重要です。足が宙に浮いたままだと、逆に不安定になり危険です。一般的には、床から便座の高さを40~45cm程度に設定するのが適切とされています。また、便座を高くするだけでなく、前後の揺れが少なく、安定感のある便座を選ぶことも大切です。
ドアや引き戸の改修
1. ドアノブの交換
高齢者にとって、握力が弱くなってくると従来の丸型ドアノブを回すのが難しくなることがあります。そんな時は、レバーハンドルタイプのドアノブに交換することで、手の力が弱い方でも簡単にドアを開閉できるようになります。レバーハンドルは手を添えて押すだけで動作できるため、介助が必要な場合でも便利です。
DIYポイント
ドアノブの交換は、プラスドライバー一本でできる簡単な作業です。取り付ける際には、取り外したノブの穴のサイズに合った新しいレバーハンドルを選ぶことが重要です。また、ドアの開閉の際にスムーズに動作するかを確認し、定期的にメンテナンスを行うことで長く使用することができます。
2. 引き戸への交換
ドアが狭い廊下や狭い空間にある場合、開閉スペースを確保するのが難しいことがあります。そのような場合は、引き戸への交換を検討してみましょう。引き戸はスライドさせるだけで開閉ができるため、車椅子を使う方や杖をついて歩く方にとっても大変便利です。また、引き戸のレールは床に埋め込むタイプや段差のないタイプを選ぶことで、つまずくリスクを減らすことができます。
DIYポイント
引き戸の取り付けには、ある程度の工具と作業スペースが必要ですが、比較的DIYで取り組むことができる作業です。特に、既存のドア枠を活用できる場合は、引き戸のレールを取り付けるだけで済むことも多いです。引き戸の動きがスムーズであることや、ドアの重量に適したレールを選ぶことがポイントです。
床のバリアフリー改修
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1. 滑りにくい床材の選択
床は毎日の生活で必ず使う部分であり、滑りやすい素材のままだと転倒のリスクが高まります。特にフローリングやタイルの床は、靴下やスリッパを履いた状態で歩くと滑りやすいことがあります。滑りにくい素材に変更するか、既存の床に滑り止め加工を施すことで、安全性を向上させましょう。
DIYポイント
既存のフローリングやタイル床に滑り止め加工をする場合、市販の「滑り止めワックス」を使用するのが効果的です。このワックスは床に塗るだけで表面の摩擦力が上がり、滑りにくくなります。また、カーペットやラグを敷く場合も、滑り止めマットを併用することでズレを防止し、安全性を高めることができます。
2. 段差の解消
家の中に小さな段差があると、つまずきやすく、転倒の原因となります。特に敷居やドアの周辺にある段差は目立ちにくいため、注意が必要です。段差を解消するためには、スロープを設置するか、床材を上げることで平らな面を作る方法があります。
DIYポイント
スロープを設置する際は、段差の高さに対して十分な長さのスロープを選びましょう。先ほども触れたように、1cmの高さに対して12cmの長さを確保すると、傾斜が緩やかで安全です。また、段差解消用のマットやラバー素材のスロープは、簡単に設置できるだけでなく、柔らかい素材のため、足腰への負担を軽減する効果もあります。さらに、つまずきにくいだけでなく、滑りにくい表面加工がされているものを選ぶことで、より安全性が高まります。
照明の改善
1. 明るさの調整
高齢者になると視力が衰え、暗い場所で物が見えにくくなることがあります。家の中が暗いと、段差や障害物を見落として転倒する危険性が高まるため、適切な明るさの照明を取り付けることが重要です。特に、玄関、廊下、階段、トイレ、浴室など、移動の多い場所には明るい照明を設置することが推奨されます。
DIYポイント
照明を改善する場合は、LEDライトの使用がおすすめです。LEDは消費電力が少なく、長寿命で、明るさも十分に確保できます。特に、センサーライトを導入すると、夜間のトイレや廊下の移動時に自動で点灯し、暗い中での歩行を助けるため、非常に便利です。また、手が届きやすい場所にスイッチを設置するか、リモコンで操作できる照明にすることで、より使いやすくなります。
2. 色温度の選び方
照明の明るさだけでなく、光の色温度も重要です。昼白色や温白色など、目に優しく自然な光の色を選ぶことで、視覚的な負担を減らすことができます。また、場所によって照明の色温度を調整すると効果的です。例えば、リビングや寝室などリラックスしたい場所には、温かみのある色合い(3000K程度)を選び、作業を行うキッチンや廊下には、より白に近い明るさ(4000K~5000K程度)の照明を選ぶと、生活がより快適になります。
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ドアストッパーやクッションの設置
1. ドアストッパーの設置
高齢者がドアを開閉する際、ドアが急に閉まってしまうことがあり、これが転倒や指を挟む事故につながることがあります。こういった事故を防ぐために、ドアストッパーを設置することで、ドアが勝手に閉まるのを防止できます。特に、風でドアが急に閉まるような場所や、手を離してしまいやすい玄関やトイレのドアにおすすめです。
DIYポイント
ドアストッパーは、床に設置するタイプや、ドア自体に取り付けるタイプがあります。床置きタイプは設置が非常に簡単で、動かすだけで固定できますが、誤ってつまずく可能性もあるため、使う場所を選ぶ必要があります。一方、ドアに取り付けるタイプは少し取り付けの手間がありますが、より安全性が高く、つまずくリスクが少ないのが特徴です。どちらも工具がなくても取り付けられる製品が多いので、DIY初心者でも安心して導入できます。
2. ドアクッションの使用
ドアを勢いよく閉めた際、指を挟んでしまったり、壁や家具にぶつかって傷をつけるリスクがあります。これを防ぐためには、ドアクッションを取り付けるのが効果的です。ドアクッションは、ドアが閉まる際の衝撃を吸収し、怪我や家具の損傷を防ぐことができます。また、ドアを開け閉めする際の音も軽減されるため、静かな環境を維持することができ、高齢者にとっても優しい住環境を作る一助となります。
DIYポイント
ドアクッションは、両面テープで簡単に貼り付けられるタイプが一般的です。取り付ける位置は、ドアの上部や側面にある隙間に挟むように設置すると効果的です。工具を使わずに数分で取り付けられるので、DIY初心者でも問題なく導入できるでしょう。また、クッション材が柔らかく耐久性のあるものを選ぶと、長期間使っても効果が持続します。
まとめ
以上、DIYでできるバリアフリー改修について、各部分ごとに具体的な方法を紹介してきました。これらの改修はどれも専門的な技術を必要とせず、比較的簡単に取り組めるものばかりです。バリアフリー化は、転倒や事故のリスクを減らし、安心して生活できる環境を整えるための重要なステップです。ご家族や自分自身のために、少しずつでも取り組んでみてください。安全で快適な住環境をDIYで作り上げることが、これからの生活を豊かにする一助となるでしょう。
さぁDIYの準備を始めましょう。